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それに私は福岡高裁判決自体に納得していません。
あの訴訟は、開門派原告団が、事業主である国を訴えた構図です。開門でもっとも影響を受ける諫早市は蚊帳の外だった。何度も「干拓事業の重要性を法廷で訴えさせてほしい」と農水省にお願いしましたが、叶いませんでした。私たちの思いが一顧だにされずに負けたことは非常に腹立たしく、かつ不可解です。
実際、開門を命じた福岡高裁判決の半年後の23年6月、ほぼ同じ開門派原告団が「即時開門」を求めた別の訴訟で、長崎地裁は潮受け堤防の防災・営農効果を認め、原告の請求を棄却したんですよ。現在福岡高裁で係争中ですが、まったく逆じゃないですか。
それだけに農水省が裁判できちんと立証に取り組んだのか、極めて疑わしい。
まあ、農水省の消極姿勢の背景には、当時の政治情勢があったのかもしれません。21年9月、民主党政権が誕生し、22年4月には政府・与党の検討委員会が「開門調査を行うことが適当」との見解をまとめました。つまり諫早湾干拓事業は「無駄な公共事業」の象徴にされたわけです。
高裁判決後、鹿野道彦農水相(当時)は衆院農水委員会で「菅首相には上告した上で最高裁で和解による解決を求めていくべきという方針を申し上げた」と答弁しています。要するに最初から和解狙いで勝つ気はなかったわけですよ。
しかも農水省の思惑は外れました。問題に精通していると自認する菅直人首相(当時)が「私なりの知見」を理由に上告しない政治決断をしたからです。