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福岡高裁判決(平成22年12月)が命じた潮受け堤防の開門期限が12月21日午前0時に迫る中、農林水産省は9日、予定していた開門対策工事の着手を見送った。地元住民が工事予定地で激しく抗議したため、工事は困難だと判断した。住民らは今後も抗議を続け、着工を阻止する構え。菅直人元首相の「私なりの知見」に基づく独断と暴走は、問題をこじれにこじれさせている。
9日午後、工事予定地には、長崎県選出国会議員や県議、諫早市議らを含む住民ら約350人が「開門反対」のはちまきを巻いて現場に集結した。
九州農政局の担当者ら約10人は「国には司法判断に従い、開門を行う義務があるんです」と説明したが、諫早湾防災干拓事業推進連絡本部の栗林英雄本部長(諫早商工会議所前会頭)は「裁判で地元はなおざりにされた。もし着工するなら体を張って阻止する」と頑として譲らなかった。
自民党の北村誠吾衆院議員(長崎4区)も「住民の生命、財産、生活に対し責任を取れない結果を招く。まったく意味のない調査のための対策工事は、いかに国民全体に不利益となるかをよく考えてほしい」と工事中止を求めた。
工事予定地は国有地なので地元の同意がなくても工事を強行できるが、九州農政局は地元の反発を助長しかねないと判断。担当者は「今後も着工する際は、事前にお知らせします」と説明し、撤収した。
農水省は、開門による農業などの被害を最小限に食い止めるため、海水淡水化施設建設など計330億円の対策工事を施す方針だが、地元住民は「工事は開門につながる」として阻止する構えを崩していない。