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「これは前に商品化したスープと変わらんのじゃないのか?」
社長就任から半年後、試作ラーメンを一口すすった酒見は、開発部門の社員にこう迫った。
その通りだった。パッケージこそ変えていたが、スープの味はほとんど変えていなかったのだ。開発部門の社員は青い顔をして押し黙った。
「なるほど、これがマルタイの体質なのか…」
酒見は合点がいった。確かにマルタイの商品の完成度は高い。だが、その「老舗のプライド」が、新たな味への挑戦を阻んでいた。
営業部門や企画部門が「トマト味皿うどん」や「鶏の水炊き風白湯ラーメン」などを提案しても、開発部門は「5年前に一度やって売れませんでした」「他社のコピーのような商品はやりたくありません」などと反発した。
酒見は社員たちをこう諭した。
「消費者の嗜好(しこう)は半年どころか1カ月でも変わるんだよ。5年前と今は求められる商品は違う。もっと柔軟に考えましょう」
こうしたやり取りを繰り返すうちに、社内にあった「ガス屋にラーメンの味が分かるのか?」という空気は次第に消えていった。
酒見は商品開発にも積極的に口を出した。
山登りが趣味の酒見は、登山家に棒ラーメンが愛好されていることを知っていた。他のインスタントラーメンに比べてかさばらず、さっぱりと飽きの来ない味だからだ。
「登山者専用の棒ラーメンがあってもいいじゃないか」。こう言って酒見は、2食入りを増量した1食に変え、体力消耗を防ぐようにスープにビタミンやシジミ成分のオルニチンを配合した。パッケージは手袋をしたままでも開けやすいように工夫し、ゴミを増やさぬようスープとかやくは一包にまとめた。