九州電力川内原発1、2号機は審査書案が了承され、再稼働への道筋が開けた。東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえ、技術面で再稼働の条件はほぼクリアしたが、自治体が整備を進めている原子力事故の防災計画には不備が目立つ。住民の被(ひ)曝(ばく)を抑える安定ヨウ素剤の事前配布や、事故時に前線基地となる緊急事態応急対策拠点(オフサイトセンター)の整備など、運転再開に向けた課題は残されたままだ。
鹿児島県では、原発から半径30キロ圏にある薩摩川内市など9市町に約21万5千人が暮らす。いずれも既に事故時の避難経路などを定めた防災計画を策定し終え、計画の実効性をより高めるために計画の内容を磨き上げる段階に入った。
その一環として県は5月、30キロ圏の住民の9割が圏外へ避難するのに最長で24時間45分かかると試算。だが、市町ごとの避難時間は算出されず、放射性物質の拡散に影響を与える風向きなども考慮していない。
地元自治体からは、避難計画の実効性向上につながるか疑問の声もある。30キロ圏のいちき串木野市の担当者は「渋滞場所が分かっても避難時間が分からない。市で解析するのは難しく、国や県には実地に役立つ情報を期待したい」と話す。
県の防災計画では、国の指針で示された甲状腺被曝を防ぐためのヨウ素剤を、原発5キロ圏の住民へ事前配布することになっている。しかし、再稼働までに配布作業を完了できるか不透明な状況だ。
5キロ圏の住民は約4800人。規制委は自治体向けに30人規模の模擬説明会を開くなど配布事務の手続きを周知してきたが、実際の説明会では700人規模の会場もあり、配布事務が思うように進まない事態となった。県の担当者は「漏れなく配布を完了するには、10月までかかる可能性もある」とする。自治体側の対策が原発再稼働に間に合わない可能性も出ている。