昭和の日本企業と類似
韓国で社会問題にならないのはなぜか。
まず、姜さんが挙げたのは、労働者や労働組合が労働時間短縮を優先してこなかった点だ。
2件目の事例にあったように、韓国企業は基本給が低く抑えられる傾向にある上、経済成長に伴う物価上昇に比べ、賃金が上がってこなかった。老後への不安の裏返しで「現役時代に稼がねばならない」と考える労働者も多いという。
さらに、姜さんは長時間労働で成果を出すことを「美徳」とする雰囲気が、社会全体に定着していることも指摘した。
これについては、立命館大大学院で姜さんの指導を担当している櫻井純理教授(社会政策論)が、昨年9月に韓国企業の人事担当者らと懇談したときのエピソードを紹介し、補足した。
それによれば、韓国企業には長時間の残業を終えても、社員同士が酒席を囲むなど濃密に付き合う文化があるという。家庭生活に悪影響を及ぼすという弊害に気づいた一部の企業が、飲み会の回数削減をうたいはじめたほどだ。
いずれも昭和の高度成長期に日本企業でみられた風潮と重なるとして、櫻井教授は「適切な規制がないことや労働文化など、日韓では過労死問題の背景に共通点がある」と話した。