【書評】『俺の喉は一声千両 天才浪曲師・桃中軒雲右衛門』岡本和明著 (1/2ページ)

2014.8.3 14:27

 ■いい人にはいい人が集まる

 私は、浪曲にはそれほど詳しくありません。浪曲といえば、せいぜい、早朝に父が聞いていたラジオの「おはよう浪曲」くらいでした。

 ただし、小さいころから寄席に通っていたので、落語を中心とした芸には、たいへん興味を持っていました。

 ところが、浪曲はなぜか寄席では上演されておらず、実演で接する機会はあまりありませんでした。

 なぜ浪曲が、ほかの芸能と一線を画されていたのか、以前からおぼろげながら抱いていた疑問を、著者・岡本和明氏が解き明かしてくれています。本書の主人公、浪曲の中興の祖といわれた桃中軒雲右衛門の曽孫でいらっしゃる方だそうです。

 そんな天才浪曲師の「生涯」というよりは「生きざま」が、ていねいな時代考証によって、次から次へと頁(ぺーじ)をめくりたくなるタッチで描かれていきます。語り口こそちがいますが、野村胡堂の『銭形平次』のように次の展開が楽しみで、一気に396頁を読みきってしまいました。

 「浪曲」や「時代考証」の一件も面白いのですが、いちばん気に入ったのは「桃中軒」という芸名の由来、さらになぜ「雲右衛門」なのか、のくだり。思わず笑ってしまいました。

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