日本人の人質殺害が機となって過激派組織「イスラム国」に関する出版物が急増した。イスラム教に関して一般的に関心を示さない日本のジャーナリズムとしては異例である。私も5、6冊読んだがピンとこない。イスラム国の内部情報が的確でないからだろう。当然本書もイスラム国の内部にメスを入れているものではないが、外側から観(み)ている日本人の疑問に著者が元外交官の経験を通して答えているものである。
イスラム国で一番私たちが疑問を持っているのは、領土を持っていないのに、国を名乗っていることであろう。しかも国連加盟の全ての国が国として承認していないのに、中近東、アフリカの反政府過激派の多くの組織が恭順の意を示している点だろう。次に欧米に限らずアジアやアフリカの若者の中にこの非人道的かつ過激なテロ集団に共感を持つ者がかなりの数いることだろう。巷では「そりゃ金だよ、ギャラがいいからさ」と切り捨てているが、本当にそうなのだろうか。そして、人を殺害するときに、最も残酷と思われる首切りをするという点である。残酷な映像を見せることで恐怖心を煽(あお)っているという考えはどうなのだろうか。また、軍事力に優(まさ)っている欧米の有志連合をもってして、どうして一気に叩(たた)き潰せないのか、そんな歯がゆさや不甲斐(ふがい)なさ、疑問をイスラム過激派全体から解析している。