【書評倶楽部】タレント・麻木久仁子　『メディア・モンスター～』 (1/2ページ)

　□『メディア・モンスター　誰が「黒川紀章」を殺したのか？』

　■「みんなに伝えなくちゃ…」

　平成１９年の都知事選に、黒川紀章はなぜ立候補したのだろう。メディアはシボレーのキャンピングカーを改造した選挙カーやクルーザーを駆使した派手なパフォーマンスを話題にしたが、黒川氏が何を訴えようとしたのかは一向に伝えなかった。功なり名を遂げた有名な建築家の戯れのようにさえ見えた。もちろん結果は惨敗だった。直後の参院選にも立候補、妻で女優の若尾文子さんも街頭に立ち「このままでは主人は蟷螂（とうろう）の斧（おの）になってしまいます。どうか当選させてください」と訴えた。が、これもまたあえなく落選、その３カ月後、この世を去った。実は選挙戦の最終日、黒川氏は倒れて救急搬送されていた。末期がんだった。救急車の中で「みんなにもっと伝えなくちゃいけないことがあるのに」と何度も呟（つぶや）いていたという。

　才気にあふれ、スタイリッシュで、政財界に華麗な人脈を持つ人物が、突然勝ち目のない戦いに突っ込んでいき、敗れ、死んだ。晩節を汚したという人もいる。そうなのだろうか。

建築に疎くても、黒川紀章ならば知っているという方は多いだろう