建築という分野に疎くても、黒川紀章ならば知っているという方は多いだろう。コンクリートの巣箱を積み重ねたような「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」や大阪万博の「東芝IHIパビリオン」をはじめ数多くの作品を残した。がそれ以上に耳目をひいたのは、派手なライフスタイルとメディア戦略だった。「建築」が限られたエスタブリッシュメントのものから大衆のものへと変わりゆく時代に、作品でも、自らの肉体や言葉でも饒舌(じょうぜつ)に語り、つねに大衆にアピールした。メディアが産んでメディアが育てた時代の寵児(ちょうじ)のあとをたどると、そのまま戦後のメディア史になる。黒川氏の語る建築論とメディア論がシンクロするのだ。読み進めるうちに「タレント建築家」と揶揄(やゆ)されようとも最後まで伝えようとしたことがなんだったかを考えずにはいられなくなる、読み応えのある一冊だ。(曲沼美恵著/草思社・2700円+税)
【プロフィル】麻木久仁子
あさぎ・くにこ 昭和37年、東京都出身。タレントとして幅広く活躍中。書評サイト「HONZ(ホンズ)」メンバー。