『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』ダーグ・ソールスター著、村上春樹訳(中央公論新社・1700円+税)【拡大】
□ダーグ・ソールスター著、村上春樹訳
■物語は、進んでいくだけだ
『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』というタイトルは、著者にとって11冊目の小説で、18冊目の著作であるという意味なのだと、あとがきに訳者の村上春樹が書いていた。ナンバリングがそのまま物語のタイトルだというのは、メタフィジックと言えばメタフィジックだけれど、どこか味気ないなあ、などと思いながら本を開き読み始めた。だが、すぐになかなかよいタイトルだと思い直すことになった。
ちょっと見ないテンポと風味を持つ小説だ。ノルウェイの小都市で収入役として働く主人公の男を取り巻き、発生する事実が、内面の描写に長く留(とど)まることなくどんどん書き出される。次々に咀嚼(そしゃく)し、のみ込むより前にまたやってきてしまう現実のなかに他人が存在しており、その他人と主人公は直接心を交わらせたりはしない。それなのに主人公の人生は、他人という動かないコマの配置により、軌道を変更されていく。一体、どこへ行くのかわからない。
そのうえ人間はそんなことに満足できやしないのだ。抗(あらが)いが、軌道に歪(ゆが)みを生む。そうして出来上がる、太陽を求めて形を変える樹木の枝のような一つの風変わりな人生が、淡々とした文体で描かれる。「考えても見てください。そんな風に長い人生を生きることを。自らのいちばん深い必要性を見聞きできる場所に至る小径を見出すことなく、この人生を生きていくということを!私は沈黙のうちに死んでいくことでしょう」と、男が発言するのは物語のある妙な局面で、けしてその悲痛な心境の吐露が慰めになったりもしない。物語は、進んでいくだけだ。