たとえば、妻の浮気から始まる離婚騒ぎを典雅なエロチシズムと辛辣(しんらつ)なユーモアで描いた『当世女大学』、あるいは原作であるオスカー・ワイルドの警句を一切使わずに皮肉と機知をちりばめて映画的に再構築した『ウィンダミア夫人の扇』の記述を読むと、未見にもかかわらず、軽妙な〈ルビッチ・タッチ〉のイメージが脳裏に立ち昇ってくる。
日本版はさらにフランソワ・トリュフォーのルビッチ論と山田宏一氏の特別寄稿「永遠のエルンスト・ルビッチ」が収録されている。とりわけ山田氏のエッセーはワインバーグが言及していない『青髯八人目の妻』や失敗作と断じた『淑女超特急』の魅力を精緻に解き明かし、キャロル・ロンバード、ジーン・ティアニーらヒロインの官能的な魅惑に捧(ささ)げた美しいオマージュでもある。訳者宮本高晴氏の手になる入念な「ルビッチ俳優年鑑」も読み応えがある。(国書刊行会・4500円+税)
評・高崎俊夫(編集者)