首相訪露、隣人フィンランドから助言を
佐藤優の地球を斬る安倍晋三首相は、北方領土交渉の進展を図ることを真剣に考えている。そのためには、首脳間の個人的信頼関係の強化が重要であると考え、安倍首相は、5月の大型連休中にロシア南部のソチ市を訪れ、ロシアのプーチン大統領と会談する調整を進めている。
これに対して、米国のオバマ大統領が懸念を表明しているとの情報が、組織的に流布されている。北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて2月9日、日米電話首脳会談が行われたが、その際、オバマ大統領から安倍首相に、「なぜ伊勢志摩サミットの前に訪露する必要があるのか。ロシアに間違えたメッセージを伝えてしまうのではないか」などと言って牽制(けんせい)をかけてきたという。これに対して、安倍首相は訪露の意志を覆さなかったので、最後、オバマ大統領は「アベが日本の国益のために行くというならばそれでいいだろう」と言って電話を切ったという。これをオバマ大統領による「了解」と受け止めるか「捨て台詞(ぜりふ)で、強い不快感の表明」と解釈するかについて、外務省内で見方が分かれているようだ。
日本にとって、米国は唯一の同盟国である。しかし、それだからといって日本外交が米国の政策に完全に従属する必要はない。日露は引っ越すことのできない隣国である。中東危機をめぐるエネルギー問題、北朝鮮による核開発、弾道ミサイル発射をめぐる問題、北方領土問題について、首脳レベルでの対話を行うことが日本の国益に貢献すると思う。
この関連で、フィンランドのニーニスト大統領の見解が興味深い。
<来日中のニーニスト・フィンランド大統領は9日、日本記者クラブで会見し、安倍晋三首相が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)前のロシア訪問を調整していることについて、「前向きに受け止めており、サポートする」と日本の対話路線を評価した。
ウクライナ情勢に伴い、欧米とロシアの対立が深まる中での安倍首相の訪露計画については、オバマ米大統領が2月の日米電話首脳会談で自粛を求めた経緯がある。
ニーニスト大統領は「欧州連合(EU)の対露制裁にフィンランドも加わっており、ロシアとの立場は食い違いもある」としつつ、「さまざまな問題はその食い違う意見の中間に現存している」と指摘した。
ロシアはシリア問題など国際社会のさまざまな問題に関与しており、「プラグマティックに対応していく」ことが重要との考えを示した。>(3月9日「産経ニュース」)
フィンランド人の対露感情は決して良くない。戦争に敗れたため、フィンランドは、カレリア地方をソ連に割譲することを余儀なくされた。第二次世界大戦後も、フィンランドは、価値観は自由民主主義で、資本主義体制を取ったにもかかわらず、ソ連との摩擦を引き起こすことを避け、NATO(北大西洋条約機構)に加わらず、中立政策を貫いた。ソ連との貿易経済関係も重視した。
フィンランドにとっても日本にとってもロシアは隣国だ。私たちの生活で、隣人が耐えられないほど嫌な人である場合は、引っ越すという選択肢がある。しかし、国家の場合、引っ越すことはできない。国際法を恣意(しい)的に解釈し、露骨な帝国主義政策を展開するロシアとも、隣国である以上、付き合っていかざるを得ないのである。フィンランドは、ロシアの恐ろしさを熟知している。それだから、プーチン政権とも対話のチャンネルを維持している。ニーニスト大統領が、安倍首相の訪露をサポートするといっている状況を最大限に活用すべきと思う。どのような、論理(ロジック)と修辞(レトリック)がプーチン大統領に対して有効であるか、ニーニスト大統領から助言を求めるべきだ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)
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