実直に手間暇をかけて
つやつやしたデミグラスソース(以下、ソース)をまとって、小学生のげんこつ大の牛肉が3つ、並んだ一皿が運ばれてきた。付け合わせは、マカロニ、ポテト、ニンジン、インゲン。
肉にナイフを入れる、というより触れるだけで、ほろほろと柔らかい塊がくずれた。たっぷりソースを絡めて口に運ぶと、濃密でまろやかな肉のうまみが広がる。一口、また一口、ソースを絡めては肉を口に運ぶ手が止まらない。大きな3つの肉の塊とソースは、たちまち皿から消えた。量もあって味も濃厚、おまけに本来脂っこいとされる牛バラ肉だというのに、胃にもたれない。記者が訪れる数日前には、食欲がうせてしまった94歳の男性が「ここのシチューなら食べられる」と息子に連れられやってきて、ぺろりと肉を2つ平らげていったという。
「とにかくビーフの味わいを出したいから、なるべく食材は単純に、余計な野菜や、調味料もほとんど使わないで作っています」と上原さん。では、と厨房をのぞく。