ところでぼくは、今日の日本が痛快にも愉快にもなるには、まず東京一極集中が壊れないとダメだろうと思っている。それにはまずもって商業文化のセンターである大阪がもっとダイナミックになる必要がある。そのために歴史的人物に頼れとは言わないが、学んでほしい。近松にしろ西鶴にしろ、また懐徳堂や蒹葭堂にしろ、すべては商業文化と結び付いていた力だったのである。洪庵もそのことに力を注いだ先駆者だった。13年ほど前にぼくが請われて「上方伝法塾」を開いたときも、このことを何度も強調した。シュリンクするのはまだ早い。そのあたりのこと、大阪大学も大いにがんばってもらいたい。
【KEY BOOK】「花神」全3冊(司馬遼太郎著/新潮文庫、704~830円)
適塾の出身者であった村田蔵六、のちの大村益次郎を描いた小説だ。花神とは野山に花をもたらす神のことをいう。さすがに司馬は、この作品で洪庵、諭吉を配して蔵六のひたむきな個性を浮上させ、かれらがいずれも花神であろうとした生涯に光をあてた。洪庵もそうであったが、大村益次郎も自分を売り込むことなどに興味をもっていなかったのだ。司馬が強調したのは、日本をつくったのは、こうした謹厳な実務者や技能者だったということだ。