昭和20年代の京都に育った者には、クリスマスはピンとこなかった。華やかでもない。僅(わず)かにイヴの夜に、サンタクロース役の母が枕元にリボン付きで置いてくれる包み紙の中の本に、目がさめたとたんに出会えることだけが夢見心地になるくらいだった。
ディケンズの『クリスマス・カロル』では、イヴの夜に頑固で強欲でひねくれ者のスクルージの前に現れるのは、亡霊である。かつての相棒マーレイの亡霊だ。亡霊は「あんたの鎖は俺のものより重い」と言って、今夜は3人の精霊がやってくるよと言い残す。案の定、過去・現在・未来のクリスマス霊がやってきた。
最初にやってきたのは、幼くも老成した顔のスクルージだった。けれどもどこか初心(うぶ)で、ああ、自分はあんな「すれ違い」で人生をこんな冷酷な方に進ませたのかと思えた。次に、冠とローブを纏(まと)ったやたらに長身のスクルージが出現した。この男はスクルージをロンドンのいろんな場所に案内し、なんだか懐かしいけれど、貧困や病気で困ってもいた連中と出会わせた。
うとうとしていたスクルージが目を覚ますと、そこには真っ黒な布に身を包んで青白い手を差しのべる不気味な男が立っていた、ところがこの男には実体がない。どうやら死んだ男がいるらしいのだが、それが誰だかわからない。