10時間以上かけ、やわらかく
順番が前後したが、この日の先付は「蒸しアワビと聖護院ダイコンの吉野葛あんかけ」。真ん中のオレンジ色は、カラスミのあぶりである。10時間以上かけてやわらかくしたアワビに、だしが香る熱々の葛あんがかかってほっとする温かさ。寒い京都だからこその最初の一皿は、その心遣いにもほっこりする。
焼き物は、旬の「寒モロコの炭火焼き」。京都ではおなじみ、お隣の滋賀県・琵琶湖産の天然モロコをさっと焼いたもので、子を持つこの時期のものは特に珍重されている。
梅とウグイス、開けると雪景色
梅とウグイスが描かれた美しい漆塗りが登場した。美しい器もこの店の楽しみの一つで、野口さんは独立前から集めてきたそうだ。梅はもちろん、近くの天神さん(北野天満宮)にちなんだもの。境内には何千本という梅が植えられ、正月も過ぎると、時に雪もちらつく中で早咲きの梅がほころび始める。
さて、その椀のふたをあけると湯気がふわりと立ち上った。中はというと…まるで雪景色。「グジの蕪あん」である。