グジとはご存じアマダイのことで、京都を代表する食材の一つ。やさしい上品な甘さがあって、蒸しても焼いてもいいが、ここでは冬野菜独特の甘味を持つ蕪で仕立てたあんをかけていただく。添えられた珍味「バチコ」(ナマコの卵巣を乾燥させたもの)が味のアクセントになっていた。
きれいなグラスに入って出てきたのは、これも1月10日くらいまでという、とびきりの冬の味覚「コッペガニの酢の物」。ある種のブランドともいえるコッペガニは、別名セコガニともいい、松葉ガニのメスのこと。土佐酢のジュレでそのうまみを存分に味わう。
絶妙、ぜいたくな肉豆腐
海の幸だけでなく、こんな一皿も野口さんならでは。「肉豆腐です」と出てきたのだが、ずいぶんぜいたくな肉豆腐じゃなかろうか。ただし、きわめてシンプルなのだ。火の加減はお好みに合わせますよ、ということだったが、この絶妙の火の通り具合がまたいい。
実はこの店、決して足の便が良い場所にあるわけではない。「一軒家の町家で店をしたかった」という野口さんは、あえてこの場所で、落ち着いた風情の店を構えた。「建物が器で、トータルでもてなしだと思うんですよ」。