≪生きることの激しさと美しさ≫
小屋のテラスには昨日までなかったアカシカの頭が逆さに置かれていた。昨夜ベテラン猟師のトーリャが獲ってきたのだ。
一瞬ぎょっとするが、切り口の真っ赤な血と白い脂身のコントラストが鮮烈で、そこにカエデの黄葉が一枚、そっと張りついている。その姿はこの場にあまりに溶け込んでおり、残酷というよりむしろタイガで人や動物が生きることの激しさと哀(かな)しさ、そして美しさをひしひしと伝えてくるのだった。
空から舞う雪が毛皮に積もり、その瞳に落ちてはとけてゆく。森のどこかで今も生きている鹿と、目の前で解体された鹿との境界が薄れていくような不思議な気がした。
狩小屋では薪ストーブが焚(た)かれ、大鍋でアカシカのスープが煮込まれている。ニンニクをいくつも丸ごと投入し、ビーチャがジャガイモと玉ねぎを手際よく刻んで味を調える。アカシカはすでに生きものから食べものとなり、小屋はスープのいい匂いでいっぱいだ。