そこに舟のエンジンの音が響いてきた。雪の中、クラスヌィ・ヤール村の猟師がロシア人の釣り客を案内して上ってきた。2隻で10人ほどの人間が加わると川辺は一気ににぎやかになる。珍しくホームステイ先の主人のゲーナが船頭をしている。そして普段お酒を飲むところを見ない彼が、これまた珍しくウオツカをひと瓶持って小屋に入ってきた。
僕が「朝からウオツカはちょっと…」とためらっていると、「今日はお祝いだから」ともう皆にグラスを配っている。その日はゲーナの誕生日だったのだ。久しぶりに上流に来た彼はとてもうれしそうだ。ビシッと冷えたウオツカが注がれ、皆で乾杯して飲み干す。猟師たちは上機嫌で半袖になり、外の寒さと裏腹に小屋は朝から大きな笑い声と熱気ではちきれんばかりだった。
また上流のハバゴの狩小屋には大きなアンテナがあり、小さなテレビが見られる。猟師たちは休んでいる時、天気予報やニュースはもちろん、映画やバラエティー-などさまざまな番組を楽しんでいる。日本のニュースも流れるので、タイガの奥で過ごす猟師が東京電力福島第一原発の事故の状況を実によく知っている。そしてチェルノブイリの事故を経験した国だけに、住民が受ける被害の深刻さや、どれだけ情報が隠されるかを熟知しているのだ。