宇川直宏「UKAWA’S_TAGS_FACTORY!!!!!!!!!!(完結編)/1000_Counterfeit_Autograph!!!!!!!!!!」の展示風景。時代やジャンル、著名度もさまざまな模写サインが並ぶ(三嶋一路さん撮影)。Courtesy_of_YAMAMOTO_GENDAI【拡大】
「その人となり」を表す
ところ変わって、ここは最先端のアートを展示する都心のギャラリー「山本現代」(東京都港区)。至るところ壁を埋め尽くすのは、誰も知らぬ者はおらぬような有名人のサインばかり。聞けば洋の東西、世代や性別を問わず、数は実に1000人分に及ぶという。デカルト、マルクス、ヘレン・ケラー。手塚治虫、赤塚不二夫、やなせたかし。AKB48、Perfume、ももいろクローバーZまで。しかし本物ではない。実はこれ、アーティストの宇川直宏がすべて、一人で現物からそっくりに模写した「作品」なのである。
しかし、ことさらに驚くことはない。風景を描くのが風景画、人物を描くのが人物画、静物を描くのが静物画なら、サインを描くのが「サイン画」であっても別に不思議ではない。真に驚くべきは、これだけの数の個性も持ち味も著しく違うサインを、筆致や崩し字に至るまで寸分違わず模写してみせ、市販の色紙と組み合わせて「借景」してみせる、その編集の妙技だろう。
しかし、こうやって宇川の手を通じ、ギャラリーの白い壁で眺め直してみると、サインとは本当に不思議なものだと感じる。もしかしたらサインというのは、本人の顔よりもずっと「その人となり」を示しているんじゃないか。どんな人でも顔に目・鼻・口はあるけれども、サインにはそうした共通項が一切ない。