宇川直宏「UKAWA’S_TAGS_FACTORY!!!!!!!!!!(完結編)/1000_Counterfeit_Autograph!!!!!!!!!!」の展示風景。時代やジャンル、著名度もさまざまな模写サインが並ぶ(三嶋一路さん撮影)。Courtesy_of_YAMAMOTO_GENDAI【拡大】
宇川は、サインを求められた人の様子に応じ、誰のサインをするかを描き分ける。誰のサインが施されるかは、実はサインを求める人自身の反映でもあるのだ。実際、展示を見ているうち、自分がどのサインを好むかも、次第にはっきりしてくるはずだ。有名人のサインを見ているようでいて、実は自分と対面しているにすぎないのかもしれない。宇川が「宇川直宏」と署名しないのは、煎じ詰めればそういうことかもしれない。
本展では、これらサイン画の連作に加えて、旧作でもある夏目漱石に生き写しの人形と、東京大学医学部に収蔵されたホルマリンに漬けられた漱石の脳味噌もレプリカで展示されている。こちらはサインではなく本人の模造だ。が、肝心なのは脳が展示されていることだろう。多種多様なサインのつづりを見たあとに眺めると、漱石の脳の皺(しわ)が、いつのまにかニョロニョロした彼の筆跡やサインのように見えてくる。(多摩美術大学教授 椹木野衣(さわらぎ・のい)/SANKEI EXPRESS (動画))