「写真界の芥川賞」といわれる木村伊兵衛写真賞-。第1回受賞者、北井一夫さん(69)に取材を申し込んだ。電話で。快諾を得た。冬の午後。住所を頼りに自宅を訪れた。路地に入り込む。番地がとんでいるようだ。なかなか見つからない。約束の時間が迫ってくる。やむを得ず、再び、電話。
--すいません。お宅にたどりつけないんですが…
「わかりました。迎えに行きましょう。近くにお寺があるでしょう。そこで待っていてください」
穏やかな声。救われた。境内で待つこと3分。北井さんがにこやかに現れた。森をまわって2階建てのお宅に到着した。居間。熱いお茶をごちそうになる。話をうかがった。
旧満州で生まれた。戦後、家族とともに引き揚げてきた。少年時代は谷中(やなか)や深川(ふかがわ)で暮らす。日本大学芸術学部に進学するが、中退。1960年代後半。日大全共闘が築いたバリケードのなかに入り込んだ。
「闘う学生たちの日常性、生活を撮りたかった」
70年代、空港反対闘争最前線、成田市三里塚(さんりづか)に向かう。農民たちに密着した。1枚の鮮烈な写真がある。団結小屋。砦(とりで)のようだ。ヘルメットをかぶった少年たちがまっすぐ前を向いて屹立(きつりつ)している。祖父母や両親とともに闘った少年行動隊だ。