【BOOKWARE】
1週間ほど前、東京にけっこうな雪が降った。ちょうど降り始めたときに仕事場の窓から外を眺めていた。すぐに屋上に上がった。ここは周囲に高い建物がなく、世田谷360度が見渡せる。雪は螺旋(らせん)を描きながら、ぼくを包んでいった。「今日の雪は本気だな」と思った。たちまち中谷宇吉郎の『雪』の最後の一文、「雪は天から送られた手紙である」にまみれた。なんだか嬉しくてしょうがなかった。そこで、言いたいことがある。
寺田寅彦を読んだことがないのなら、日本人をやめなさい。中谷宇吉郎を読まないで自然科学者になろうとするのも、やめなさい。そういう科学者はオペレーターにしかなりえない。それから、名文と謎の解き方と機知を感じたいなら、ゲームなんてやらないで寺田寅彦を読みなさい。次から次へと自分がヒューリスティック(発見的)になっていくのが実感できる。でも、もしも雪の美しさに名状しがたい浪漫を感じているのなら、これは何をさておいても中谷宇吉郎を読みなさい。