【佐藤優の地球を斬る】
毒蛇と毒サソリが戦っている場合に、どちらかを応援しなくてはならないという義理はない。現下のウクライナとロシアのいさかいは、まさに毒蛇と毒サソリのにらみ合いだ。
ウクライナのヤヌコビッチ前政権が、民意から乖離(かいり)した腐敗政権であったことは間違いない。それだからといって今回、自動小銃や猟銃、火炎瓶などの軽火器を用いてキエフで権力を奪取したウクライナの新政権が、欧米や日本のように自由・民主主義・市場経済という価値観を共有する人々によって構成されているわけではない。特に西ウクライナのガリツィア地方を基盤とするウクライナ民族至上主義者には、反ユダヤ主義的傾向もある。
ロシア語で、「エトノクラツィヤ(этнокрация)」という言葉がある。英語だと「エスノクラシー(ethnocracy)」に相当するが、自民族だけで政治、経済、教育、文化のすべての権力を掌握しようとする支配体制を意味する政治的病理だ。とりあえず「自民族中心主義」と名づけておく。アルメニア、アゼルバイジャン、セルビア、クロアチア、コソボなどで深刻な民族紛争を引き起こした原理も、この自民族中心主義だ。