そこで、ぐずぐずと座り込んでしまいそうな自分に鞭を打って、可能性のありそうな(もしくはまったくなさそうな)小説のある一部分を、何も考えずに書き出してみるのだ。さまざまな物語の断片を。
そして、自分の中にあるかすかな予感のようなものだけを頼りに、少なくとも西側のドアが怪しい、とか南側のドアのような気がする、と方角を絞り込む。だが、それでも扉は無数に存在するし、思いきってノックして飛び込んだ部屋の中に、自分の探している欠片(かけら)と似ているものが見つかってくれる可能性はかなり低い、大抵はからっぽの空き室で、私は手ぶらでその部屋を「そうだよな」とつぶやきながら退場する。これはと期待したのにゴミしかない部屋だったり、虫の蠢(うごめ)いている部屋だったりはしょっちゅうだ。室内なのに台風が吹き荒れていたり、誰かのインテリアをそっくり真似ていたり。そもそもどんな部屋を探しているのか、途中で分からなくなってしまわないように。一番気をつけていなければいけない。