日本に帰国して「グアテマラ」の国名を耳にしたのは、たった一度だけ。スターバックスの注文カウンターで店員が「本日のコーヒーはグアテマラ産の○○」と説明したときだった。グアテマラで実際に目にしたコーヒー労働に携わる、真っ黒に日焼けした男たちと、スターバックスコーヒーの無機質な空間に響く「グアテマラ産コーヒー」から浮かんだイメージはかけ離れていて、遠く離れた2つの国の距離を物語っているようだった。
≪美しい湖畔に湧く黒い噂≫
「グアテマラ産コーヒー」で思い出すのは、メキシコでも聞かれた、大企業や大国絡みの黒い噂だ。
耳にしたきっかけはアティトラン湖周辺の、村から村を移動するピックアップトラックの荷台で交わされた会話だった。首都に住む旅行者のグアテマラ人男性が道沿いにあるコーヒーの木の状態が悪いことに気づき、地元の女性に理由を尋ねた。すると女性は「ヘリコプターがある日突然現れ、上空から液体を散布してから、木の具合がおかしくなった」と意味深なことを言った。その後に、あくまで噂話と前置きして「畑の下に鉱山があって、政府は外国企業に売却したいらしい」と困ったような表情を見せた。