適度な緊張感
私たちの生活環境は、利便性という点では数十年前と比べて申し分ない。各地を飛び回る生活を送っている私自身、もはやiPhoneのない生活は考え難い。しかし、自然との共存を強く感じていた時代に得られた安らぎは消えてしまったように思える。情報と技術の海に浸り、余りある恩恵を受けながらも、幼少の頃に感じた安らぎを得たいとの贅沢(ぜいたく)な願いを持っているのである。
願いをかなえるためには、何が必要なのか。その答えは、実は適度な緊張感にあるのではないかと思う。
安らぎを感じる心地よさは、自分を取り巻く環境がバランス良く存在するとき、すなわち全ての物事との距離感が適切な状態にあるときに感じられるものだ。適切な距離感は均衡を生み、物事と自分との間に適度な緊張を生じさせる。しかし、あまりに便利な環境の中に身を置いていると、物事との関係性が希薄となり、自分との距離感も曖昧になってしまう。その結果、空気がだらしなく弛緩(しかん)し、どことなく居心地が悪く心休まらない空間を作り上げてしまうことになる。