夏のウスリータイガはよく雨が降る。ザーッと一息に降って晴れあがるスコールのような雨だ。
ビキン川を舟で遡(さかのぼ)っていると、積乱雲がわき遠雷が鳴り響いてきた。慌てて雨具をとり出し、シートで荷物をくるむ。陽が陰り、大粒の雨が川面に波紋をつくり始める。
やがて土砂降り。森や川、舟にいる僕らも何もかもが雨に打たれ、まさに濡(ぬ)れネズミの様相だ。それでも狩小屋が遠ければ、とにかくそこまで舟を走らせなければならない。
だが雨に潤った両岸の木々が息を吹き返し、タイガに瑞々(みずみず)しい生命力がみなぎってくるのを見ると、半ばやけっぱちになりながらも、大きな自然の呼吸に立ち会っているような爽快な気分になってくる。
そして河原で焚(た)き火をしている猟師が「チャイ ピーチ(お茶を飲んでいけ)」と誘ってくれる武骨な声が、天使の声のように響くのである。
それにしても怖いのは雷だ。稲妻が光って間もなく轟音(ごうおん)が響きだすと、冷や汗がでる。森は巨木だらけだが、川面に飛び出しているのは、どうみても舟の中の僕と猟師だけだからだ。