たまたま隣の木より背が高かったのか、あるいはちょうど稲妻が走った先に立っていたのか-。いずれにしても山ほど木があるタイガの中で、どうしてもこの木でなければならない理由はあっただろうか。
雨上がりのタイガは空気が澄み、樹々の葉が鮮やかに輝いていた。雷に打たれて裂けたドロノキも、周りの木と同じように枝を広げ、天に向かって伸びている。その姿をじっと眺めていると、運が悪かったというよりむしろ、タイガの自然の激しさと気まぐれとを伝える“選ばれた木”のように思えてくるのだった。
雨が続けば川は増水し、岸に立つ木を次々と流してゆく。樹齢100年を越す大木も、運よく中州で芽吹いた幼木も水の力にはかなわない。雷に打たれた木も隣の木々も、いつかは倒れ川に流されてゆくのだろう。だが無造作に森を離れていった木は、やがて川のあちこちで重なり合い、今度は倒木の森となって魚やカワウソの住み家になるのだ。