城陽がこの金銀糸の産地として選ばれた理由は、城陽の立地、特に豊富な地下水の影響が大きい。漆は硬化するために、70~85%の湿度が必要で、地下水がもたらす適度な湿気は、金銀糸製造に欠かせない漆の硬化に適していた。また、京都中心部では加工が追いつかず、地理的に近い城陽地域の下級武士の内職として発展、定着した。こうした製造上の必要性と市場との近接性が産地形成に影響したのである。
伝統と技術革新の融合
市場である京都の需要に効率的に応えるため、他の産地と同じく、城陽でも金銀糸は分業で生産されるようになった。漆紙作り、箔押し、着色、裁断、撚り、蒸し、仕上げといった各工程で新たな技法が編み出された。例えば、泉工業は染色薬品に浸けても金銀が取れない技術を世界で初めて編み出し、爆発的な需要を生み出した。このようにして、伝統の技法をベースに技術革新を続け、和装を中心とした需要の拡大に応えていった。