湿ったグラウンドで2バウンド目が思ったより沈む。グラブが上から打球を追い、わずかに体勢が崩れた。ホームは間に合わないかもしれない。一塁走者はすでに自分の背中を通過し、前進守備からの反転では二塁送球も間に合わない。
名手ゆえの本能か、魔が差したか。体はホームに向かって前進を続けながら、体をひねって一塁へ投げた。だが、打者走者は試合の行方に関係しない。
ホームに滑り込んだ太田は自身がサヨナラの走者となったことに気づかなかった。一目散にホームを目指し、振り返れば一塁手がミットにボールを収めている。併殺が完成したのか。まさか二塁手が直接一塁に投げたとは思いもしない。駆け寄るチームメートの笑顔で、試合終了を知った。
山根は一塁へ投げた瞬間、自らの重大なミスに気づいたという。そのままグラウンドに崩れ落ちた。残酷な光景だった。
≪君のせいじゃない もう泣くな≫
ボールが手を離れた瞬間、市和歌山の二塁手、山根翔希は「あっ」と気づいたのだという。打者を打ち取っても、三塁走者がホームに帰ればサヨナラゲーム。そのままグラウンドに両手をつき泣き崩れた山根に、十二回まで1人で投げた主将の赤尾が声をかけた。