私はその「あと一押しの、その一押しを自分がやってしまったらやだなあ」という感情を「最後の一滴感」と名付けていた。
この言葉にしづらい感情は人生経験が増えるにつれて、次第にあらゆるバリエーションを増やしていった。中でも、「最後の一滴感」にまるで対抗するように生まれたのが、「海底の一粒感」で、これは名の通り、まるで自分が海底に落ちた、たった一粒の砂になったかのような感覚である。
このあいだ、私は観に行ったある芝居で、ついに誰よりも先陣を切ってスタンディングオベーションをしてしまった。時間を経るにつれて、あの、私だけが得点を2点持っている特別審査員としての意識が薄れていき、今となってはカーテンコールで声援すら惜しげもなく飛ばせるようになった成長の結果であるが、それにしても400人は収容しているかと思われる劇場の客席で、一人だけで立ち上がるなどと予想してはいなかったので、私は内心焦った。が、あからさまに座り直すわけにもいかない。