「ハンガリー語」に原作者喜ぶ
15年前、サース監督は友人の勧めで初めて原作を読んだ。「フランス語は日常会話ができる程度」だからと、ハンガリー語版で味わい、純粋無垢(むく)な双子の兄弟が試行錯誤を重ねてたくましさを身につけていく姿に魅了された。映画はフランス語ではなく、ハンガリー語で撮影され、演出もハンガリーへの郷愁に満ちあふれたものとなった。それは、クリストフを口説き落とし、映画化権を手にする決め手ともなった。「原作では登場人物の国籍や舞台があいまいに描かれています。でも、クリストフに強く申し出ました。『原作はあなたの体験をベースに書いたお話。映画では母国語のハンガリー語で撮影します』とね。彼女はとても喜んでくれましたよ」
確執ゆえに実母とは20年も没交渉となった祖母に、双子の兄弟は次第に親愛の情を育んでいく。生みの親より育ての親? 作品は子供との距離の取り方を考えさせる親向けのよき教材ともいえよう。サース監督が原作小説を読み、関心を抱いたのも双子の兄弟の心の変化にあった。「2人がどのように『生きる』ということを学んでいったのか。さらに言えば、なぜ冷酷な怪物になってしまったのか。原作を読むと、人間の内側の奥底にある感情を感じ取ることができるんです」