審査委員長のスイス人、ルチアーノ・リゴリーニさんは「アメージング」を繰り返した。秋の夕暮れ。天平の甍(いらか)が乗る本堂横の庫裏の縁側に現れたのは松田美由紀さんとチェロ奏者の坂本弘道さん。夫である松田優作さん(1949~89年)を亡くして3人の子供とともに生きる日々をつづったエッセイを朗読していただいた。「子宮の言葉」と題したそれは、日本語のわからない海外のゲストたちにも大変心に響いたようだった。「言葉がまるで音楽のようだった」とはルチアーノさん。虫の声、月の光、ろうそくの灯が「命」の本質に思いを巡らせる役割を担っていた。奇しくも元興寺に現存する数多くのお地蔵様はサンスクリット語で「子宮」を意味するそうだ。そんなご縁にも感謝した。
明けて12日はレッドカーペット。獅子舞に先頭を歩いてもらって露払い。次々とそこを歩く世界からのゲストとレッドカーペットクラブサポーターのみなさん。ハレの舞台はしつらえられ、能楽堂での映画上映はことのほか趣があってよかった。奈良公園に隣接した庭園でのオープニングパーティーでは和太鼓の披露から始まって、鏡割り、餅つき、と日本のお祝いには欠かせないイベントが盛りだくさんで会場はにぎわった。