監督、脚本、制作を一手に担った念願の長編映画デビュー作「イロイロ ぬくもりの記憶」が、思いがけず昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)に輝いた。一夜にして世界にその名を知らしめたシンガポールの新鋭、アンソニー・チェン監督(30)が描いたのは、複数の民族で構成される母国のとある中流家庭の少年とフィリピン人メイドの心温まる交流で、題材はチェン監督自身の少年時代の体験をベースとしている。「僕はごく普通の家族の姿を映し出した映画が好きで、日本の小津安二郎監督の映画もよく見ました。『イロイロ』では登場人物の表情や家の中の様子を緻密(ちみつ)に映像化したつもりです。作品を通してシンガポール人の生の姿を知ってもらえればうれしいですね」。チェン監督は声を弾ませた。
自身のメイド、モデルに
1997年、共働きの両親と高層マンションに住む一人っ子のジャールー(コー・ジャールー)は、ヤンチャが過ぎて学校ではすっかり問題児扱いされていた。