一方、カールの妻、ロット(レベッカ・ホール)といえば、優しい夫と息子にも恵まれ、何一つ不自由のない生活を送ってきたはずだったが、次第に誠実なフリドリックの人柄にひかれていく。そんなある日、カールは突然、フリドリックにメキシコへの転勤を命じる。
やがて許されない恋へと突き進んだ2人だが、それぞれが抱くいとしい気持ちを言葉で相手に伝えようとはしない。ルコント監督は、恋の行方に浮足だった観客たちをわざとじらして楽しんでいるかのような、極めて抑制の効いた演出を選んだ。「それはフリドリックの緊張感を表現したものです。本来は手の届かない、自分よりも地位の高い女性に対し、ひそかにアプローチした彼の心情を忖度(そんたく)しました。その緊張感は、原作を読み進める僕に猛烈な勢いで語りかけてきたものです。秘めた恋というのは、僕が知らない感情ではありませんしね」