冷や飯しかあてがわれなくても、それを実にうまそうに食ってみせる人というのが、どこの組織にも1人くらいいたりするものだ。だからこそ人生は面白く、生きてみる価値もある。中井貴一(きいち、53)主演のヒューマンドラマ「アゲイン 28年目の甲子園」(大森寿美男(すみお)監督)は、そんな男たちの人生のささやかな輝きを丁寧にすくいとった物語だ。
中井の役どころは名門野球部の元球児で、今はスポーツ新聞社に勤めるバツイチのサラリーマン。何かと反抗的な年頃の一人娘に手を焼く父親でもある。そんな主人公があることをきっかけに、かつての高校球児たちが再び甲子園を目指す「マスターズ甲子園」に長い年月を経て出場する決意を固める。「これまでも、特別な人というよりも、どちらかと言えばどこでも見かけるような、ごく普通の人物を演じることが多かったんです。そのせいか、物腰が自然で、力みのない人間をやりたいなとずっと思ってきました」。中井はこの役どころと出会えたことを幸せに思っている。