私の専門は、獣医学、薬理学、食品安全などだが、その基礎は「生物学」である。生物学の唯一の統合的理論が1859年にチャールズ・ダーウィンが唱えた「進化論」だが、その詳細については現在も検証が続いている。
進化論とは、環境に最も適応した生物が選択されて生き残り、多くの子供を残して親の性質を次世代に伝えていくというもので、これを「自然選択」と呼ぶ。この理論で多くの生物の進化が説明できるが、説明できないものもある。たとえば働き蜂は子供をつくらず、女王蜂のために働く。しかし、自分の子供をつくらなければ、働き蜂になるという遺伝子も滅びてしまうはずだ。
そこで出てきたのが「選択されるのは遺伝子であり、個体は遺伝子の乗り物に過ぎない」という逆転の発想で、リチャード・ドーキンスが1976年に執筆した『利己的な遺伝子』(日本語訳は1991年)の考え方だ。働き蜂が自分の子供を作らなくても、同じ遺伝子を持つ姉妹が女王蜂になってたくさんの子供を作れば、自分の遺伝子を増やすことができる。一見利他的な行動が、実は自分のためだというこの考えに、私を含めて多くの人が影響を受けた。