坂本さんは、柳宗悦がこの地を訪れたとき、「すばらしい形だ。何も変えずにこのままつくり続けなさい」といわれたからだという。
小鹿田焼は、器に個人名を入れることを慎む匿名性のなかで育まれた。この土地のどこかに、日本の美しい原風景を感じるのは、制作する人々の姿が、器それぞれに映し込まれているからだと思う。
各窯の軒先には、山積みにされた小鹿田焼の器たちが、500円、800円と、誰もが手にできる価格で売られている。東京のギャラリーで見るのとは、ひと味もふた味も違う、この山積みの姿こそが、庶民のための本来の器の姿であると感じる。
飛び鉋の技法は、外側に施せば手が滑りにくく、内側であれば料理が崩れにくい。実用と装飾が一体となった優れた姿で、表面に施した白化粧が日本の食材との色の相性もよく、盛った料理を引き立てる。我が家でも、食卓のスペースを、すっかり小鹿田焼の器たちが占めるようになった。