イタリア取材から12年
当然のことながら、それによって起こるのは、イタリア現地における日本人の飽和状態。当時のことを井川は日本人が「うじゃうじゃいた」と語り、シェフ以外は全員が日本人という状況も珍しくなかったらしい。そんなあまたいる料理人の卵たちの中でも、自身の「核」を強く希求する若者に井川はひかれ取材を重ねた。そしてできあがったのが『イタリアに行ってコックになる』という一冊の本。上梓したのは2003年のことだった。
それから時間が流れること12年。日本の外食事情も大きく転換してきた。そんな状況下、10年前のイタリアで夜明けを待っていた若者たちがどんな道のりを駆け抜けたのか。そんな彼らを再訪するのが本書の骨子だ。そして、その曲がりくねった彼らの料理道には、陳腐なフィクションを上回るようなドラマがあふれているのだ。当然のことながら、皆が成功してスターシェフになっているわけではない。だが、読者にとってまったく知らない料理人の歩み、彼らの挫折や苦悩やささやかな悦びが、読み手の心と胃袋に響いてくるのだからたまらない。