日本最年少の三つ星シェフとなった福本伸也がバレンシアの厨房で胸ぐらをつかみ合い大げんかになった話は壮絶。しかも彼は帰国後、母の介護をするため料理そのものから離れざるを得ない状況も経験していた。
9年もイタリア修行を続け、現地で日本人初の一つ星を取った堀江純一郎は転んでもただでは起きない男。自称、天邪鬼が「面白い」と向かった奈良の地で、当時流行した地産地消とは真逆のスタイルをどう確立させたのか?
「非ヘルペス性辺縁系側頭葉脳炎」という脳にウイルスが侵入する病気になり障害を抱えることになった伊藤健は、自身のことを「運がいい」と言う。恥ずべきは「挑戦しないこと」と語る彼はいま、車椅子シェフとして新しいステージを模索し続けている。
気がつけば北京やシンガポールにたどり着いたシェフたちもいる。なぜか、沖縄で家族経営の小さなイタリア料理店を始めた者もいる。それぞれの10年分の重みを感じながら、個々の紆余曲折に僕は想いを馳せる。そして、彼らが歩んだすべての道のりを肯定してあげたいという気持ちが読後に訪れるのだ。