「犯人の一人は、私の前にいた女性の頭に銃を突きつけると、躊躇(ちゅうちょ)なく撃った。即死だった」。「今も鼻の奥にその時の火薬の臭いがこびりついている」というほどの距離だった。
ベルファイさんは慌ててバルコニーから走って逃げたが、左右の脚にそれぞれ2発ずつ銃弾を浴びた。混乱の中、妻を見失い、自分は廊下の壁にもたれ、首を下げて死んだように装った。「この悪夢はいつか終わる」と念じながら1時間近くが過ぎたころ、警官が到着、ようやく生還できると確信した。「近くにいた日本人の中年女性は、緊張と安堵(あんど)の落差のためか嘔吐(おうと)していた」という。
運ばれた病院では当初「ベルギー人の死者はいない」と聞かされたが、翌日医師の一人が、犠牲者のものという装飾品を持ってきた。「妻のネックレスだった。すぐに妻が死んだと分かった」。振り返る声が震えた。
ベルファイさんは妻の遺体を見なかった。「美しい思い出だけを抱えていた方が良い」という医師のアドバイスに従ったためだ。妻の死因は、頭部への至近距離からの銃撃。「苦しむことはなかったと思えることだけが救いだ」。こう話したベルファイさんは事件から1週間を前に、妻の遺体と共にひっそりと帰国の途に就いた。(共同/SANKEI EXPRESS)