「音楽について多くのことに目を開かされるとともに、人間として実に多くのことを学ぶことができました。さまざまな経験を通し、どんなことにも負けずに前に進むことの大切さを知りました。ストレスで歌うことができなくなったとき、心の底から歌を愛していることに気づき、深く胸に刻みました」
失意の底から救ったのはイタリアを代表する名バリトン、レオ・ヌッチの歌声だった。
「ボローニャに近い彼の生まれ故郷の教会で開かれた演奏会に足を運びました。登場しただけで会場の空気が一変してしまうことに戦慄のような感動を覚えました。一つ声を出しただけで心の底からの震えを感じ、歌うことで人に希望や勇気をこれほどまでに与えるのかと驚かされました。そんな存在に一歩でも近づきたい、無理だと思うことでもチャレンジしなければならないと決意し、今日に至りました。音楽に向き合うことの意味をかみしめながら、明日も歌を届けたいと願っています」(文:谷口康雄/撮影:フォトグラファー 大石一男/SANKEI EXPRESS)