いわば「降霊術」
この展覧会は、だから、たんに偉大なモデルを広く回顧した展覧会には留まらない。率直な印象としては、とてつもなく広い場所を借りた、「降霊術」を思わせる。現世とあの世との境界を超え、無限の連鎖と増殖さえ感じさせるその存在は、のちの『リング』における呪縛霊「貞子」や、『新世紀エヴァンゲリオン』における人造生命「綾波レイ」といったキャラクターが持つ、怖さと美しささえ先取りしている。
展覧会の終盤で、山口小夜子というスタイルを借りて、世代を超え、たくさんのクリエイターたちが彼女と共演し、新作を披露しているのも、注目に値する。
なかでも、東京都現代美術館で最大の展示空間でありながら、あまりにも素っ気ないため、これまで、ほとんど中身の詰まった展示に成功してこなかった巨大な吹き抜け=アトリウムでの展示が、今回ばかりはすごい。そこでは、ありとあらゆる山口小夜子が同時に共演し、混じり合い、声となり影となり言葉となって、空間を駆け巡る。しかし、そんなことが可能になったのも、彼女自身が、どんな場にでも盛りつけられることができる、巨大な「器」そのものであったからなのかもしれない。(SANKEI EXPRESS)