本紙の沖野修也さんによる連載でもお分かりだと思うが、今ジャズがどんどんアップデートされている。それも、米国やヨーロッパだけでなく、アジアやアフリカ、中南米諸国など、これまではいわゆる「辺境」なんていう言葉のもと色眼鏡で見られていたエリアから、才能にあふれたミュージシャンが続々と登場しているのだ。むしろ、そういった国々から現れるジャズメンの方が、独創的で革新的。ジャズという音楽の固定観念を取り除き、多面的に解釈する面白さに満ちている。
楽曲にさまざまな仕掛け
なかでも、アルメニア生まれのティグラン・ハマシアンはその筆頭格といってもいいだろう。20代という若さでありながら、すでに確固たる地位を築いているピアニストである。彼の音楽は、ジャズという狭いジャンルで語られる音楽ではないのかもしれない。通算5作目となる「モックルート」は、基本はピアノトリオというオーソドックスなスタイルでありながら、楽曲ごとにさまざまな仕掛けが施されていて一瞬たりとも聴き逃せないという印象だ。複雑な変拍子を取り入れる様子はプログレッシブロックのようだし、アルメニア民謡のメロディーにエレクトロニカの要素を加えるような大胆な実験を行ってもいる。おまけにスキャットも披露するので、単にピアニストというだけでは評価できないだろう。そこはかとなく漂う祖国への愛もティグランらしさといえる。