さながら泥人形のようだった。土俵の砂が全身にこびりつき、汗で流れてまた砂にまみれる。何度土俵に転がったろう。
体重207キロのおもちゃを与えられたように、横綱白鵬はモンゴルの後輩、逸ノ城(いちのじょう)を両国国技館の土俵上で翻弄した。4月29日、横綱審議委員会稽古総見での一幕である。
無料公開で行われた館内には約7000人の観客。「稽古はじめなので、とにかく汗を流したかった」という余裕の白鵬は、逸ノ城を指名して9番を取り、いいように弄んで8勝1敗。
逸ノ城はぶつかり稽古でも白鵬に転がされ続け、太りすぎの体をなかなか起こせず、場内から失笑が湧くシーンまであった。北の湖理事長も「あれじゃあ、だめ。横綱に泡を食わせるような稽古をしないと」と渋い表情で切り捨てた。
砂まみれ泥まみれの逸ノ城は疲れ切った様子で「何もできなかった。さすが横綱」とうなだれた。
角界(かくかい)には「かわいがり」という言葉がある。厳しい稽古で痛めつけ、鍛え上げることだが、時に美名に名を借りた私刑まがいの行為にエスカレートすることもある。この日の白鵬は、本来の意味で逸ノ城を「かわいがった」のだろう。ただし観客の目には、いじめのように映ったかもしれない。