稽古後の逸ノ城の体には、土俵でついた無数のすり傷や切り傷もあったという。その後も連合稽古などで逸ノ城は白鵬の胸を借り続け、その都度転がされ、生傷を増やしていった。
角界にはまた、「恩返し」という独特の用語もある。厳しい稽古をつけてくれた先輩力士に対する白星を指すものだ。
10日に迎えた大相撲夏場所の初日。逸ノ城はさっそく格好の舞台を与えられた。結びの一番での白鵬戦である。
≪角界のドラマ 3秒に濃縮≫
両国国技館に座布団が舞った。結びの一番。自身2度目の7連覇と前人未到の35度目優勝を狙う横綱白鵬の相手は、三役復帰の“怪物”逸ノ城。過去4度の対戦はいずれも歯が立たず、場所前の稽古総見では砂まみれにされた。
かけられた懸賞は48本。勝てば手取りで144万円。大一番の立ち会いは逸ノ城が気負ったか、つっかけて白鵬が待った。
2度目はこれが影響してか立ち遅れ気味で、かちあげて突っ張るはずが、いきなり横綱に左上手を取られ、不十分な体勢となった。