まず、北京当局が元を切り下げると、かねてから「元は安すぎる」として切り上げを求めている米議会を怒らせ、対中貿易制裁の機運に火をつけかねない。北京はしかも、元を国際通貨基金(IMF)の仮想通貨「SDR(特別引き出し権)」の構成通貨に加えるよう、ワシントンに働き掛けている。これに対し、IMF理事会で拒否権を持つ米国は時期尚早とみている。そんな中で、元を切り下げると、元のSDR通貨化の望みはなくなる。
それ以上に、切実なのは、資金の対外流出である。グラフを見ていただこう。中国の外貨準備は昨年6月末をピークに減り続け、ピーク時に比べ昨年12月末で1500億ドル減、今年3月末は2630億ドル減となった。中国は国際金融市場からの銀行借り入れや債券発行で合計年3000億ドル前後のペースで外貨を調達しているが、それでも外準が大幅に減る。「世界一の外準保有」を誇っていても、見せかけに過ぎず、内実は外貨窮乏症に悩まされている。だからこそ、多国間銀行であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の看板を掲げて、国際金融市場からの借り入れを容易にしようという算段なのだろう。