心の醜さに向き合わされる
そこまで考えた私は、風邪をひいた人に対して少しの同情心も持っていない自分にどきっとする。彼らだって、好きでせき込んでいるわけじゃない。それなのに。
が、目の前のその人が、こちらの葛藤も知らず、あまりに当然のようにごほごほやっていると、またもだんだん憎らしくなってくる。これはもはや、風邪をうつす、うつさない、という視点で語られるべき範疇(はんちゅう)をとっくに超えているような気がしてしまう。人前でマスクをつけない行為が及ぼす、深刻な問題。それは周りの人間が、病人相手にむかついてしまう己の心の狭さや醜さに、意味もなく向き合わされることなのではないだろうか。
仮にそこまで考えていないつもりでも、私たちはきっと無意識に自分に失望し、傷つき続けているに違いないのだ。そうじゃなきゃ、私にとって、彼らがこんなにもストレスを感じる存在であるはずがない。そして、こんなにも私を傷つけておきながら、何一つ気づいていない、その横顔がますます腹立たしいのだ。