食卓に、慣れた自作の一品だけでもあれば、やはりそれが最もおいしく感じられるだろう。その感触に自身の体が素直にうなずくことができれば、自作の数がもう一皿、もう一皿と増えていくかもしれない。料理に向かいたくなる気持ちも一緒にかたち作る。そして、自分の頭や勘を働かせて食卓を考えれば、やがて料理が苦痛や面倒ごとではなく、楽しみに変わる。長尾はそう語りかけながら、85のレシピと10のエッセーを届けてくれた。
さて、最後に僕の家の冷蔵庫の話だが、ガラスの保存容器が入るようになり、きゅうりとセロリの甘酢漬けが初々しい新米顔でそこに並んでいる。正直、2、3週間に一度の作り置きだが、ちいさくとも偉大な一歩だと僕は声を大にしていいたい。少なくとも、僕は今年の人間ドックを少し心待ちにしているくらいなのだ。(ブックディレクター 幅允孝(はば・よしたか)/SANKEI EXPRESS)
■はば・よしたか BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。近著に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』(晶文社)。